Cortex LLM は Argus の中核となる言語モデルです。人間の脳の知覚の仕組みに着想を得たアーキテクチャで、多くの信号を同時に受け取り、注目すべきものを選び、ワーキングメモリに文脈を保持し、既存の知識から予測し、自らの確信度を確かめます。一文ずつ切り離して翻訳するのではありません。
課題
現在の翻訳システムは個人ユーザー向けに設計され、文脈を持たずに一文ずつ処理します。二人の会話なら機能しますが、多くの話者と言語があり、会議全体で文脈が積み重なる組織の会議ではうまくいきません。
システムは設定なしで各人の言語を把握し、行ったり来たりせず安定して識別し続ける必要があります。
アジアの組織では、タイ語・中国語・日本語の文に英語を混ぜて話すことがよくあります。
一文ずつの翻訳では、代名詞、前の話への言及、組織固有の用語が失われます。
速い翻訳は不正確になりがちで、正確な翻訳はライブの会話には遅すぎがちです。
AI がどう判断しているか見えないため、重要な会議では頼りにくいのです。
ビジネス会議のタイ語音声データは、英語や中国語に比べてまだ少ないのが現状です。
人間の脳は、これらの問題を毎日解決しています。
プロの通訳者は大勢の話を聞き、文脈を覚え、聞き取れなかった言葉を推測し、自信がないときはそれを自覚しています。Cortex は、こうした脳の原理を AI アーキテクチャにできるかを問います。
理論的枠組み
Cortex はニューロンをシミュレートするものではありません。認知神経科学で認められた働きの原理を、各モジュールの役割を定める工学的な比喩として用いるもので、生物学的に脳と同じように動くと主張するものではありません。
| 脳の原理 | 脳では | CORTEX では |
|---|---|---|
| 多感覚統合 | 複数の感覚の信号を一つの知覚に統合する | 言葉、トーン、リズム、感情を一つの発話表現にまとめる |
| 声の認識 | 専用の領域が個人の声を認識する | 話者埋め込み(ECAPA-TDNN)を各話者の身元と言語に結び付ける |
| 選択的注意 カクテルパーティー効果 | 雑音の中から目的の声を聞き取る | 主話者に重みを置き、周囲の声を除去する注意機構 |
| ワーキングメモリ Baddeley | 処理を続けるために情報を一時的に保持する | Meeting Context Buffer が会議全体の話者・話題・参照を保持する |
| 予測処理 Friston | 入ってくる情報を予測し、誤差から修正する | Topic-aware Prior が話題から用語と意味を予測し、不明瞭な言葉を補正する |
| 言語中枢 Wernicke / Broca | 理解と産出は、連携する別々のプロセス | 理解の層と目標言語の生成を分離する |
| グローバルワークスペース Baars | 重要な情報が多くのシステムへ同時に伝えられる | すべてのモジュールが読み書きする共有ワークスペース |
| 長期記憶の固定 | 重要なものを短期記憶から長期記憶へ移す | 会議後、同意のもとで知識を組織のナレッジベースに要約する |
| 前頭前野の実行機能 | 計画し、選択肢を比較し、行動を制御する | Consult と Act のモジュール |
| メタ認知 | 自分が知っているかどうかを知る | 確信度の推定で、不確かな箇所をユーザーが確認できるよう示す |
アーキテクチャ
処理は知覚から行動まで 4 つの層で行われます。信号は下へ流れ、Global Workspace は各層へ文脈を戻します。会議の記憶が翻訳を助け、Predictive Prior が知覚層の聞き取れなかった言葉の補正を助けます。
音声からテキスト、声紋、トーンと感情
主話者、雑音除去、安定した言語の結び付け
意味と意図を、複数言語で同時に表示
助言、タスク作成、Origami への要約
各層がここで共有の文脈を双方向に読み書きします。
Working Memory
会議の文脈バッファ:話者、話題、参照
Long-term Memory
組織の知識と用語(同意のもと)
Predictive Prior
現在の話題から用語と意味を予測
メタ認知
確信度を推定し、不確かな箇所をユーザーに表示
⇄ 4 つの層すべてと接続
研究課題と仮説
中核となる仮説:組織の場では、文を切り離して翻訳するよりも、システムが脳のように処理する方が、文字起こしと翻訳は有意に正確で自然になる。
研究課題
音声のみの検出と比べ、声紋と会話の文脈を組み合わせると、話者の言語識別はどれだけ安定するか?
会議単位のワーキングメモリは、一文ずつの翻訳と比べて翻訳品質をどれだけ高めるか?
話題に基づく予測処理は、専門用語の文字起こし誤りをどれだけ減らすか?
多段階の翻訳(高速 → 文の推敲 → 段落の構成)は、速度と精度を両立できるか?
AI の確信度を示すことで、ユーザーの信頼と利用は高まるか?
仮説
声紋と文脈で言語を結び付けると、ベースラインより言語のフラップ率が有意に下がる。
会議単位のワーキングメモリを用いた翻訳は、一文ずつの翻訳より有意に高いスコアを得る。
話題別の用語バンクでモデルを調整すると、専門用語の単語誤り率が有意に下がる。
ユーザーは Argus を使うと、多言語会議の理解度を高く評価する。
ロードマップ
開発は知覚から推論へと、脳と同じ順序で進みます。各フェーズは前のフェーズの上に築かれ、測定可能な出口ゲートを通過する必要があります。Argus の機能は、5 つすべてを待たず、フェーズを通過するごとに公開されます。
フェーズ 1 · 知覚
5 言語の音声を聞き取る
ゲート 1 · WER/CER と DER がベースライン比で目標達成
フェーズ 2 · 注意
注意と言語の結び付け
ゲート 2 · 言語識別 ≥ 95% · フラップ率 50% 以上減
フェーズ 3 · 理解
理解と記憶
ゲート 3 · 一文ずつの翻訳より高品質 · 遅延 2 秒未満
フェーズ 4 · 予測
予測と組織の記憶
ゲート 4 · 専門用語 WER 30% 以上減 · DPO の承認
フェーズ 5 · 推論
推論とメタ認知
Cortex LLM v1.0、Argus で稼働
指標と出口ゲート
以下は暫定目標で、フェーズ 1 でベースラインを測定した後に具体的な数値として設定します。
| フェーズ | 指標 | 測定内容 | 暫定目標 |
|---|---|---|---|
| 1 知覚 | 言語別 WER / CER | 文字起こしの誤り率(タイ語・中国語・日本語は CER) | タイ語は公開ベースラインより 20% 以上改善 |
| 1 知覚 | DER | 話者分離の誤り率 | 模擬会議でベースライン未満 |
| 2 結び付けと注意 | 言語識別の精度 | 各話者の言語を正しく識別 | 発話区間ごとに 95% 以上 |
| 2 結び付けと注意 | フラップ率 | 話者 1 人・1 時間あたりの誤った言語切り替え回数 | ベースラインから 50% 以上減 |
| 3 理解と記憶 | COMET / ネイティブ評価者 | 意味レベルの翻訳品質 | 一文ずつの翻訳より有意に良い |
| 3 理解と記憶 | 初回表示までの遅延 | 発話終了から最初の翻訳が表示されるまでの時間 | < 2 秒 |
| 4 予測と組織の記憶 | 専門用語 WER | 組織固有の用語の誤り | 汎用モデル比で 30% 以上減 |
| 5 推論とメタ認知 | キャリブレーション誤差 | 表示した確信度が実際の精度とどれだけ一致するか | フェーズ 4 で合意した閾値未満 |
| 5 推論とメタ認知 | ユーザーの理解と信頼 | パイロット組織での会議後アンケート | 対照群より有意に良い |
わずかな精度向上より、安定性こそが信頼を生む。
Argus の設計で得た重要な教訓:フラップ率が低いこと、つまり言語識別が切り替わり続けないことは、わずかな精度向上よりもシステムの信頼感を高めます。そのため、フラップ率がフェーズ 2 の主なゲートです。
方法論
研究はデザインサイエンス研究と定量実験を組み合わせて進めます。システムを作り、標準データセットで試験し、実際の組織で評価し、各フェーズで繰り返します。
データ
公開データセット
5 言語すべての音声認識・話者分離・翻訳のベースライン。
模擬会議
参加者の同意を得て、言語の切り替え、発話の重なり、雑音などを設計したシナリオで録音した多言語データ。
タイ語ビジネス音声
英語の用語が混ざるタイ語の会議音声。文字起こしは専門家が確認。
パイロット組織
データ利用契約と PDPA に基づくパイロットパートナーのデータ。
実験
E1 · 言語の結び付け
音声のみの検出 vs. 声紋 + 文脈
RQ1 · H1
E2 · 文脈の記憶
一文ずつ vs. Meeting Context Buffer 使用
RQ2 · H2
E3 · 専門用語
汎用モデル vs. Topic-aware Prior 付きモデル
RQ3 · H3
E4 · 多段階翻訳
1 段階 vs. 3 段階、遅延と品質を測定
RQ4
E5 · 実地調査
パイロット組織で Argus あり・なしの多言語会議を比較
RQ5 · H4
倫理・プライバシー・PDPA
タイの PDPA では声紋は生体データにあたるため、これらの原則はフェーズ 1 から適用されます。
同意が最優先
研究データとパイロット会議の参加者全員が書面で同意します。
声紋は会議内でのみ使用
標準では声紋は会議終了時に削除され、同意がある場合のみ保持されます。
音声はオンプレミスに
音声と生体データは組織の外に出ません。クラウドに送るのはテキストのみです。
部外者は登録しない
隣のテーブルや近くのブースなど、会議外の人の声は決して登録しません。
透明性
参加者は、録音と翻訳がいつ行われているか、身元と言語がどう検出されるかを常に把握できます。
変更時は必ず DPO に相談
データの種類や保存期間が変わるたびに、データ保護責任者に相談します。
隠れた評価はしない
明確な方針と同意なしに、会議データを個人の評価に使うことはありません。
成果
学術: 多話者の会議翻訳のための脳に着想を得たアーキテクチャと、アジア言語における話者と言語の結び付けに関する新たな知見。
リソース: コードスイッチングを含むタイ語ビジネス会議のデータセットと評価手法。
製品: Argus の中核となり Origami Platform と連携する Cortex LLM v1.0。
組織: AI に支えられた多言語コミュニケーションが会議の理解と成果を高めるという根拠。
タイ語とラオ語のような近い言語では、言語識別を誤る可能性があります。
複数人が同時に話す状況は、話者分離にとって依然として難しい課題です。
限られたパイロット組織での実地結果は、すべての業界を反映するとは限りません。
脳の比喩は設計の枠組みであり、生物学的なシミュレーションではありません。
ベトナム語、インドネシア語など、ASEAN の言語をさらに追加。
会議中に画面に映るスライドや資料など、音声とあわせた視覚の知覚。
会議のシグナルを Origami HR Skills Graph につなぎ、継続的なエビデンスループに。